先ほどから、俺はどれぐらい歩き続けたのだろうか。
身体も既に冷え切ってしまっている。
ふと、床に視線を落とした時。
眼を凝らすと、そこには一つの歪な形の落し物。
『歪な幸せ』
朝、目を覚まして。
眠気覚ましに台所へと向かい、喉を潤す。
何気なく時計を見ると、既に10時を回っていた。
いつもにしてはかなりの遅い時刻に、苦笑しながらも昨晩の状況を考慮して。
今日は自分を甘やかすことにする。
辺りを見回しても、八戒たちの姿は無い。
この時間だから、きっと二人して何処かへ出かけているのだろう。
元々夜型の河童は恋人に釣られて、目まぐるしく規則正しい生活へと改善されていた。
二人のことを思い出すと同時に、ベッドへ残した悟空を思い浮かべて。
俺はいそいそと、恋人が待つ彼の部屋へと踵を返す。
つくづく俺は、アイツの事となると堪え性の無い人間なのだ。
半ば早足で、もと来た道を戻って悟空の居る部屋の戸をそっと開けて。
俺は驚きに硬直してしまう。
俺が部屋を出る時には、確かに寝息をたてて丸まっていた悟空が、忽然とそこから消えていたのだから。
部屋中を見回したが、何処にも悟空が居る気配は無い。
無駄にベッドサイドをウロウロしてみたものの、悟空を見つけるどころかさらに混乱が広がった。
仕方なしに、自分を落ち着ける為。
ベッドに腰を下し、悟空の帰りを暫く待ってみた。
しかし、悟空は帰って来る気配も無く。
数分さえ待つことも出来ず、俺は部屋を飛び出した。
手には、悟空に着せる為のカーティガンを持って。
まずは、先ほどの台所へ戻り、リビングへと進む。
若干の違いはあるものの、殆どが昨夜と同じままで。
悟空が俺と入れ違いへここへ来た形跡は無い。
俺は、休むことなく踵を返して別の部屋へ向かった。
残りの部屋などを見て周り、後は空き部屋と自分の部屋だと考えていた時。
ふと床に眼を凝らすと、そこには一つの歪な形の落し物。
訝しげに近寄り、拾い上げる。
するとそれは、年一回家庭の幸せを祈って行われる行事に、必要不可欠なものだった。
そして、手の中の小さな豆を見つめて。
今年も、悟空は豆を食べること。
そして鬼役になった悟浄目がけて、豆を叩きつける事を楽しみにしていたと思い出す。
かなりの抵抗を示した悟浄を、笑顔一つで黙らせた八戒を背中から見ていた俺は。
一瞬で凍りつく悟浄の表情に、逆に自分が恐ろしいものを見た気がしていた。
そんなことを考えながら、数歩歩くと。
そこにはまた、先ほどと同じ小さく歪な豆が落ちていた。
その落ちた豆の間隔は、次第に短くなり。
その内、糸で繋がっているかのように一本の紐状に落とされていた。
その豆を一つずつ拾い上げながら、昔見た童話を思い出して、自分に苦笑を漏らす。
落し物に導かれるまま俺は、糸が途絶えたある部屋の前で立ち止まる。
その部屋は、他でもない。
俺のあまり使う事のない自室だった。
驚きと戸惑いを抱えながら、そっと自分の部屋へと入ってみると。
俺の綺麗に整えられたシーツの上に、猫のように丸まった悟空が寝息を立てていた。
手には、大量の豆が入っっていただろう袋を抱え。
辺りに、袋から転がった大量の豆をばら撒きながら。
その光景に、自然と笑みが零れ、同時に脱力感に溜息を吐きたくなった。
何とも複雑な気分のまま豆を踏まないように悟空の傍へ行くと。
寝ていたと思っていた悟空は、若干寝ぼけながらこちらを向いた。
「・・・・さんぞぉ。・・おはよぉ、あさ起きたらぁ、いなくってぇ・・・・。
・・・・心配しちゃったよぉ?」
途轍もなくゆっくり寝ぼけているトーンで、お叱りを受けた。
正直、心配したのはこちらだと言いたいのを飲み込んで。
「・・・・すまない。」
どうせ俺は、悟空に敵う訳は無いのだと、諦めて謝りを告げると。
悟空は一層トロンとした表情で、にっこり微笑んだ。
何となく、別の自分が刺激されるようで、慌てて視線を外す。
「ところで、何でこんな所で寝てるんだ?」
あくまでも、刺激の多い悟空を直視しないようにして。
彼に持ってきたカーティガンをかけてやる。
すると、悟空はなんでだろう?と一瞬考えるような仕草をして。
「・・うん。さんぞが、居なかったから、こっちに来たのかと思ってぇ。
・・・・・でも、ここは三蔵の匂いがするからぁ、寝ちゃったねぇ。」
何処までも他人事のような口調と、自分を無意識に煽る恋人の発言に。
俺は、押さえが効き難くなっていることを自覚した。
それでも、寝ぼけている人間相手だと、言い聞かせる自分に。
呑気な声で、悟空は追い討ちをかけてきた。
「でも、向こうの方もベッド大っきいし。
三蔵の服もあっちだから、一緒に寝るのにぃ、今からもどろっかぁ?」
豆まきを楽しみにしていた恋人を思って。
今まで自分を抑えていたが、その相手にここまで挑発されればもう抗うことは出来なかった。
「もういい。お前が居るなら何処でも同じだ。」
自分でも、切羽詰った声が出たと思った。
そんな俺の声を聞いて、悟空の瞳が見開かれた。
顔面に、動揺の色が広がっていく。
「・・・さん・・・ぞう?・・・・三蔵さん?
ちょ、ちょっと待ってもらったりなんかは・・・・・」
見る間に、混乱だらけの静止を受ける。
しかし、今更止めてやれる訳が無い。
「・・・ん?・・・お前が、大っきいベッドがイイって言ったんだろ?」
「・・・いえ、ね?別に・・深い意味があってのことでは・・・・」
悟空を言葉で追い詰めながら、極自然に彼を組み敷く。
自分を見つめ上げる悟空の目は、助けを呼んでるように見える。
「・・・じゃ、全部、俺の勘違い、かな?」
意地悪く疑問系で、悟空へ投げかけると。
彼は一瞬言葉を詰まらせた後、しどろもどろになって赤面した。
「・・・いや、そんなっていうか。なんていうか。」
「待てない。どっち?」
自分でも意地悪く追い詰めてどうするのかと、反省する反面。
これ以上は待ちきれないという欲望が限界にきていたのも事実で。
予想以上に余裕の無い俺の声に、隠し切れない熱を感じ取った悟空は。
無言で俺の首に腕を伸ばすという動作で答えを寄越した。
俺は、そんな悟空の自分を甘やかす現状に苦笑しつつも。
甘い感覚で、胸が満たされるのを心から感じていた。
いかがだったでしょうか?
こんにちは、亜惣です。
今回は。節分ということで。
きっとTOP等の絵が間に合わないことを考慮して(笑)
小説にて更新してみました。
前々から両方とも頑張ってしてみよう!と思っていたのに。。
結局本当に間に合わなかったです。
本当に、すいません。(頑張ってみたんです、これでも。)
で、今回のお話なんですが。
節分ということで、イベントに因んだモノを絡ませていきたい。と思いまして。
『豆』って。。。と思われた方もいらっしゃるかと思いますが。
色気など、何もないですねぇ(笑)
ちなみに、『鬼』という表記は悟浄でありましたが。
個人的には八戒の形相が、今回は『鬼』に当たるかと思っております(笑)
あと、文中に"元々夜型の河童は恋人に釣られて"という表記がありますが。
この釣られては、イメージ的には八戒と一緒の生活という餌に釣られた魚の悟浄。
というようなイメージなんですよ(笑)
とこんな、下らない感じに仕上がっておりますが。(毎回です/笑)
少しでも楽しんで頂ければ、幸いです。
それでは。