これ程、苦しい焦燥感を味わったことなど無い。

失うことへの限りない恐怖。
破壊への止め処ない不安。
胸を掻き乱される様な渇望。

その全てが、お前というたった一人の為に自己主張をはじめ、俺を困惑させる。
今までにない戸惑い。

そして、何よりも増して、止められない愛情。
限界のリミッターなど既に事切れた。


お前に対する感情に、限界などない。









 『限界リミッター』



いつにも増して、激しく何度も悟空をこの腕に繋ぎ止めた。
半ば強引さもあり、とうとう悟空は事の最中に気を失った。
自分でも、大人気ないと正直ウンザリしていたのも事実。
しかし、止めなければと思えば思うほど、その感情は独り歩きを始める。

こんなに物事に執着したことはない。ましてや、人になど。
なのに、何故かアイツだけはそうじゃなくて。
悟空だけが、俺の感情を他にない程に狂わすのだ。
こいつが悪い訳ではないが、どうしても一秒も腕の中から放したくなくなる。
そんな感情が抑えきれずに、何度も求めては彼を気絶させてしまう。
悪循環の繰り返しだった。

微かな寝息を立てて、俺の隣で眠る悟空に視線を移す。
今までも、確かに自分を抑えられない衝動に駆られたことはあった。
しかし、ここまで酷く何度も繰り返すような、
自分でも目を覆いたくなるような状況では決してなかった。
悟空を思えば思うほど、心が狭くなっていく。

俺は、感情のコントロールも出来ない自分自身に嫌悪感を抱く。
大切なものだからこそ、大事にしたいと思っているのに。
失いたくないからこそ、優しくしたいと感じているのに。
俺の身体は、それをことごとく崩し去っていった。
グルグルと、自分自身を責め立てていた時。

自分の腕に温かい温もりが触れた。

「・・・・さん・・ぞ・・」

拒絶を覚悟した脳が、体中に怯えを伝達する。

「・・・・・・すまない。」

掠れに掠れた声は、悟空に届いたのかも判らない程小さく弱い。
押し寄せる不安が、何時になく三蔵を頼りなくさせる。
いつもなら、太々しい態度を崩さないのにも関わらず。
そんな俺の状況を、知ってか知らずしてか、悟空はいつものように笑った。
その笑顔に、無条件に差し出される信頼に、俺は眩暈がする程自分を呪った。
もっと優しく包むように、コイツを幸せにしてやりたいのに。
ひたすら自分を叱咤する俺を、悟空は見つめていた。

悟空の視線が痛い。
自分の汚いもの全てその目に見られているようで。
段々と、俯き加減になった俺に悟空はいきなり抱きついてきた。
そんな彼の行動に、自分の熱が再び上昇するのが分かる。
歯止めの利かない自分が一番危険なんじゃないかと本気で感じた。
ココロごと距離をとろうとして、俺は自分に抱きついた悟空を引き剥がす。

しかし、何故か彼は俺から離れようとしない。
強い力で俺に抱きつき、意地でも動かないとでも言うように腕に力を込めている。
そんな悟空に戸惑いを感じつつ、湧き上がる歯止めのない自分に溜息をついた。

「嫌だよ。三蔵が求めてくれなきゃ、嫌だよ。」
「!!!」

突然の悟空の言葉に、俺は意識を手放しそうなほど、動揺。
言葉が出てくるはずもない。
そんな俺を気にせず、悟空は必死で言葉を綴った。

「三蔵に求められると、俺、嬉しいんだ。
 嬉しいんだ、ずっと一緒に居られて。
 そりゃー、もっとどこかに行ったり、何かしたりしたいし。
 いろいろあるけどさぁ。」

「・・・・・・・嫌いにならないのか?」

弱弱しく囁くような小さな声に、悟空は目を瞬かせた。

「・・何で?」
「・・・・!!!
 何でって、いいように俺にされて、辛かったりしないのか?!
 いつもいつも俺のペースで、いい加減腹が立ったりしないのか!!?」

「解ってンじゃん。」
「!!!!!!!!」
「っ・・・はははっ。嘘だよ。」

俺の捲くし立てるような自嘲を含んだ問いに、悟空は「何を今更」とでも言いたげな顔で。
自分の言葉を全て肯定されて、笑われて嘘だと言われても、信用できない。
本気でコイツは、俺を嫌ってるんじゃないか、そんな疑問が頭を離れなくなる。
自分のしていることを棚上げしたまま、俺は悟空をまじまじと見つめる。

「嘘だよ。俺は、三蔵が俺のこと大切にしてくれてること知ってるよ。」

突然大人びた表情で切り返された俺は、返答に困る。
自分の感情を抑えられない俺が、果たして本当にコイツを大切にしていたといえるのだろうか。
そんな考えが頭をめぐり、俺は結局無言のまま。

「俺のこと、疑ってる?
 ま、いいけど。三蔵のことは、俺が一番わかってるの。
 それで、いいじゃん。」
「そんなことない、俺は、俺は・・・・・」
「俺は?・・・・・・悟空が好きで歯止めが利かない?」

「!!!!!」

自分のモヤモヤを当然の如く言い当てるコイツに、俺は眩暈と動揺を隠せない。
悟空は、俺が今まで悩んでいたことなど、ちっぽけなものだとでも言いそうな表情で。

「俺、嬉しいよ。
 強引っていっても、三蔵はいつも俺の顔見ながらするし。
 何だかんだ言っても、この手は暖かくて、優しい。」

そういいつつ、悟空は俺の手を取り、安心しきった顔で笑った。
そんな彼の態度に、俺は包み込まれるような感覚に陥る。
子供だと思っていたコイツの、温かさに癒されている。
そんな自分も、案外悪くはない。


「・・・・じゃぁ、いいんだな。
 俺が思うように、しても。」
「うん。三蔵は、俺に酷いことしないし。」
「わかんねぇぞ、そんなこと。」

不安から開放されて、いつものふてぶてしさを取り戻し始めた三蔵。
相変わらずの悟空の信用しきった態度をよそに、三蔵は不敵な笑みを頬に刻む。
そんな三蔵に、悟空はとびっきりの笑顔でこう言い放った。


「三蔵が俺を大好きなことは、この手が教えてくれるから!」

悟空の言葉に、驚きを隠せない三蔵。
それでも、抑え切れない自分ごと受け止めてくれる悟空の気持ちを知って、三蔵はいつものように微笑んだ。
言葉にしなくても、自分の気持ちは伝わってしまっていたのだと。
嬉しいような、そうでないような複雑な心境でもあるのだけれども。


自分に抱きついたまま、嬉しそうにする悟空を愛しそうな目で見つめ、頭を撫でた。
自分がそんなに優しい顔をしているとも知らない本人は。
声だけ夜の帝王へと戻り、悟空の耳へ囁いた。


「今夜も、寝かさない。」と。


それでも、三蔵の手は悟空を優しく包む。
















いかがでしたでしょうか。
第3弾、三蔵一人モヤモヤバージョン(笑)でお送りした訳ですが。
今回も含め、渇望と純情とそして限界はどれも一緒のような展開です。
取り合えず、作者がそんなシーンばかりを書きたくなったというのも一つの事情(笑)
ではありますが、それ以外にも二人にはこんな展開が似合うんじゃないか。とか思いまして。
微妙な違いのバージョンを作ったら、違う角度の三蔵が書けるかなぁ、とか。
そんな理由で、この似通ったシリーズを(笑)お送り致しました。
因みに、書き上げた日はほぼ一緒です。長さはこの作品が一番短いですが。
殆どの完成が渇望の更新日に出来上がっておりました。

にしても、今回は自分の求めるバージョン違いなるものを書けて、楽しかった。
もしかしたら、皆様は退屈かもしれませんが(笑)
兎に角、少しでも楽しんで頂ければ幸いです。
(因みに最近、漢字とカタカナの組み合わせのタイトルに嵌ってるのでしょうか。
 浮かんでくるものが、そんなのばっかりです。ゴロが良いんでそのまま使ってますが。)

それでは、次回は今までと違う感じのバカッポーをお送りできればと思います。
では、では。


2007/09/19