『雨の降る街で』





昨日あたりから、太陽を見ていない。
記憶は曖昧だが、今の視界は鮮明で。
それは、嫌気が差すほどに。

君がここに居ないことを、知りたくもないのに。


「太陽」をこんなにも見れないだけで、こんなにも重症。
俺は、不細工な面のまま自分の不埒な考えを行動にも移せず、ただ昨日と同じ場所で
重たい空気を纏って貴方を思うばかり。

欲する強い熱を胸に閉じ込めたまま。



ことの始まりは、数日前の夜。
敵の襲来に半ばウンザリしていた頃。
漸くの思いで群れを成した雑魚を蹴散らした。
奴らの去った後には、凄まじく荒れた部屋と無数の残骸。
そして、激しく散らばった使用後の銃弾の山。
少し気が遠くなるような錯覚を覚えつつも、俺はその場に彼の姿を探した。
彼は、そんなにヤワじゃないこと位、解っている。
けれど、時に彼は予想以上に脆い。
それは、極力自分の知る範囲内であって欲しいと思うけれども。

そして、俺は宿の窓辺に彼を見つけた。
所々切り傷が目立つ。
歩み寄ろうとした時、敵の一人が彼を襲った。

声も出ず、喉に引っかかったその音はそのまま飲み込まれた。
全速力で駆けつけた時には、彼は傷を負っていた。

頭に血が上った俺は、そこに残っていた残りカスごと全てを蹴散らした。
動揺と後悔とが入り混じった目をしたまま。


駆けつけると、先に二人がそこにいて。
それだけで、心の狭い自分は不快な気分で。
彼の応急処置を終えた八戒は、俺を振り返り苦笑した。

「悟空。大丈夫です。
そんな、顔をしなくとも、三蔵は無事ですよ。」
「・・・・そっか。
八戒、ありがとな。」
そう、口にする自分の言葉で、さらに自分の心には黒い蟠りが巣をつくる。
それは、誰の所為でもなく、自分自身の所為。
自分の弱さから来る、不快感。

ゆっくりと立ち上がった八戒の傍で、悟浄が八戒の心配をしていた。
俺は、そのお互いに対等である関係が眩しかった。
八戒の横を通り、彼の元へと足を進ませていく、俺。
彼は、何というだろう。
また、対等にはなれない。
彼の隣に立てなくて、俺はまた何も言えないまま後悔をするんだ。



横になって、酸化した血の付いた法衣を着た、三蔵がそこに横たわっていた。
額には汗の粒があり、少し苦しそうな表情で。
殆どが切り傷で、深い傷も八戒によって治療されたから、問題はないだろう。
あるとすれば、俺たち二人の問題だけだった。

空気を感じてなのか、悟浄たちは宿へと帰っていった。
そして、その場に三蔵と二人きりに。





重い沈黙が逆に激しく攻め立てられるより、苦しい。
目も合わせられないこんな臆病な自分になど、きっと彼は溜息を―

「何している、来いよ。」
彼は、肘で痛々しい自分の体を支えて起き上がり、俺に向かってそう言った。

それは、まるでいつものように。
いや、いつもより優しく。
そして、甘く。



「・・・・・・三蔵・・?」

戸惑いを隠せない俺に対して、傷の痛みを堪えたまま彼は手招きをした。
されるがままに彼に近づいて俺は、少し息を呑んだ。
そこにいた三蔵は、あまりにも不安そうな顔をしていたから。
いつも自分の前でさえ余程の事がない限り平気な振りを続ける彼が、眉を歪めていた。
俺を見つめる目元も、いつもより儚げで。
無言になった俺を、無言の三蔵が更に手招きした。
言葉などなく、二人の間には未だ深い霧が渦を巻いている。
まるで、俺から「太陽」を隠すかのように。

さらに招き寄せられて俺は、そのまま三蔵の手に捕らえられ。
「・・・・・?」
何も言えないまま視線を落とすと、三蔵の手が少し震えた手つきで俺の服を掴んでいた。


俺はその時、限りなく激しい後悔を胸に抱いた。
彼を追いつめるのは、自分なのだと。




無意識に彼の上に置いた手のひらは、自分でも驚くほど動揺を隠しきれないままで。
震えているのは、自分なのか、それとも彼なのか。

錯覚を起こす。
触れた部分から溶け合うような、痺れる感覚が麻痺を誘うのだ。


暫くの躊躇のあと。
俺は掴んだ腕ごと彼を抱きしめた。

なぜなら、自分の存在を悲観し否定したところで、彼に対するココロは陰りなど知らない。
どんなに厚い雲が彼を隠しても、もう彼を見失うことなどないように。



どんなに暗雲立ち込める街
土砂降りの豪雨
一歩先が見えない霧中でも

そこに貴方がいる限り、太陽は陰らないと。





自分を見つめる、真っすぐな瞳に今頃気づかされるなんて。


俺は、この太陽に誓ったんだ。

放してやらない、と。



俺のために微笑むあなたがいる限り、俺はあなたを離さない。
後悔や躊躇など、あなた以外は捨てて。
俺は、更に彼を強く抱きしめた。



「ダイスキ。」

俺は、心で呟く。




腕の中で、彼が微笑んだ気がした。



















あ〜、やっと終わった(笑)
何というか、もっと暗い感じになりそうだったのを
そうしたくなくて、必死で何とか(笑)

今回は、二人の絆の深さ何かを文字以外で伝えられれば嬉しいなぁ
と思って書いておりました。
何となく、他のメンバーもそうなんですが、
それぞれいろんな種類の絆ってなものがあって。
それをいろんな角度とか状況から伝えられればいいかな、と思っております。


傾向的には砂糖多めの、甘い感じに仕上がるそうなので(笑)
自分的には、そんなつもりは、決して。
何ていうか、続きものならどんな展開でも次が楽しみになるのならアリだと
思うんですが短編では個人的にそういう傾向が好きな模様です(たぶん)

でも、今もっとこう激しい(?)
甘くないのを検討中です(苦笑)
今の段階では自分でも整理できてないですが、近いうちにそういう話も
書いていければいいかなぁと思っております。